ミスチル 「Q」考察
「Q」と云えば?
「ヱヴァンゲリヲンQ」?
「1Q84」?
色々あるが、ここでは、ミスチルの9枚目のアルバム、「Q」を取り上げてみる。
「Q」と云えば、「クエッション」「質問」「問題」「謎」「不思議」......
様々な言葉が頭を駆けめぐるが、取り合えずミスチルの場合は、9枚目のアルバムだから、「Q」。
まぁ、当然、様々な意味は込めているんでしょうが。
ミスチル好きな僕も、「Q」はそんなに聴く頻度が高いアルバムではない。
他の人の評価を観ていると、「Qこそミスチルの最高傑作‼」などという者も居る。
まぁ、ミスチルのアルバムと云えば完成度は高いというのが相場な訳で、人によって最高傑作は違うだろう。
そこまで云うならと、この度、かなり腰を据えてジックリ視聴を試みた次第です。
で、先に結論を云う。
「なんか色んな意味でミスチルっぽくない(笑)」
ミスチルは色んな音楽スタイルに挑戦しているから、「ミスチルらしさ」はかなり幅広いのだが、それでも何だか違和感.....というか、不思議さを感じる。
まさに、「Q」である。
一曲ずつ簡単に書いていこう。
1 CENTER OF UNIVERSE
......う―む、いきなりぶちかましてくれる(笑)
スロ―なテンポから始まり、途中から早口言葉でまくし立てる中間部を経て、またスロ―になったり、兎に角忙しい。
メロディも多いし、一筋縄でいかないメロである。
まるでビ―トルズをはじめとしたUKロックのごときヒネクレたメロディや展開だ。
「深海」「BOLERO」「DISCOVERY」と続いた、黄金時代でありながらも常に付きまとっていた「死の香り」。
芸能人として急激に有名になり、金持ちと成功者の必ず味わう虚無感や欲望の世界。
ステ―ジの上では光輝きながら、裏では泥臭い光景を目の当たりにする。
悪魔の誘惑、人としての堕落。
ミスチルもそれらを経験したのだろう。
そして........
「Q」のジャケットは「深海」から桜井が浮上した、ミスチルが闇の世界から生還し、日の当たる場所へ還ってきた、というイメ―ジもあるのかも。
この一曲目はヒネクレた曲だが、明らかに前作とは違う「素直な希望」の様な雰囲気を感じる。
正直、このアルバム全体に云える事なのだが、桜井和寿の神がかったメロディ時代はこのへんで流石に終わりを向かえつつある。
ただし、それは桜井のレベルの話であり、そもそも桜井は天からメロディが降って来なくとも、もともと抜群のメロディセンスをもった恐るべきメロディ怪獣なのである。
主に、ビ―トルズ風のUKヒネクレメロディを創らせたら、大瀧詠一だろうが、財津和夫だろうが、桑田佳祐だろうが、奥田民生だろうが、草野正宗だろうが、誰も敵わない。
この一曲目でも、存分にメロディで楽しませてくれる。
2 その向こうへ行こう
.......ほう。こう来るか(笑)
ミスチルのアルバムったらば、一曲目はいつもなかなかクセのある曲が来るもんだが、2曲目は景気のイイ感じのアップテンポな曲が来て、一曲目とコントラストを付けたりするもんだが、この「Q」では一曲目に負けず劣らずマニアックで重量級の曲が配置された。
メロディもまたしてもUKっぽい匂い。
決して目鼻立ちのハッキリしたメロではないが、UKロックファンなら納得のイカシタ展開だ。
こういうのも創れるのか、桜井よ。
一般受けはとてもしそうにないが、僕は大好きですよ、この曲。
3 NOT FOUND
.......ここで、ミスチルらしいグッドメロディの曲がやってくる。
だけど、リズムは3連リズムという変化球。
でも、どんなリズムだろうが、凄まじいメロディを創れるのが桜井和寿という男だ。
ヘンテコな曲ばかりのこのアルバムの中では、逆に名曲の印象が薄くなっている、という摩訶不思議な事態が発生しているが、まぁ、普通に名曲である。
4 スロ―スタ―タ―
.......ど、どうした桜井和寿よ(笑)
邦楽ロックファンならば、一聴して思った事だろう。
「奥田民生じゃん!」。
そう、メロディも歌い方も何もかも民生である。
なんちゃって奥田民生、な曲である。
何かのラジオ番組で、桜井自身が、「奥田民生の真似が出来ますよ―」などと云って、自信まんまんで披露して居たのを思い出したが、この曲では、自分の作品でまるっきり民生をやってみました、的な曲。
しかし、見事にモノにしているのが、矢張、天才か。
5 Surrender
.......うむ。無難な曲ですな。
ク―ルな曲だ。何だか「Versus」とかそこらへんの昔のアルバムに入っていそうな気もする曲だな。
最近、オ―ケストラなどふんだんに使った豪華な曲が多いからか、こういうギター中心のシンプルな曲を聴くと何だか物足りない気もするが、でも、普通にイイ曲ですね。
多分、一般層にはこういう曲のがウケは良い気がするな。
6 つよがり
........この曲は、前作、「DISCOVERY」制作時から存在していたらしいが、収録を見送られたのだそうだ。
別に前作に入っていても問題なかったとは思うが、前作にはもっとメロディがすぐれた代わりの曲がいくらでもあったしねぇ。
この曲は、僕は普通かな。
7 十二月のセントラルパークブル―ス
........今度はボブディランごっこか。
別に「歌いこなせていない」、とまでは云わない。
桜井和寿は「歌がウマい」、とは不思議な事に胸を張って云ってあげられない。
しかし、物凄い個性的な声であり、とてつもなく印象に残る声だ。
この声で歌われると、曲が彼らしくなくとも、調子っぱずれになろうが、何だか全部OKになってしまう程のパワ―がある。
他の歌手と一緒に桜井和寿が歌う機会があったりすると、その事実が如実に判明する。
彼の声は他の歌手の声を喰ってしまう。
桑田佳祐とのデュエット、「奇跡の地球」でも、桑田佳祐というあれだけの個性的な声と対決して、歌のウマさは別として、存在感としては完全に勝っている。
そういう所、ジョンレノンのようである。
8 友とコ―ヒ―と嘘と胃袋
.......なんだ、この曲は(笑)
人力テクノ?歌ってるのはなんかフォ―クっぽい内容なのだが.......吉田拓郎的な?
アレンジや中間部の狂った語りのパ―トも含め、兎に角、キテレツな曲を創ろうと試みた、という感じか?
しかし、次回作の「LOVEはじめました」(こっちは中島みゆきっぽい) なども考慮すると、桜井の作曲の実験的な要素があるのか。
天からのグッドメロディが尽きたから、じゃあ、ちょっと変化球的な曲で、どれだけの名曲を創れるのか?という彼自身への挑戦か。
そこらへんの雰囲気は、このアルバム全体を通して伝わってくる。
(それとも僕の勝手な思い込み?)
9 ロ―ドム―ビ―
.........これまた無難な曲ですねぇ。
これも「Surrender」あたりと同じく、「Atomic Heart」以前のアルバムに収録されてそうな曲。
「Kind Of Love」あたりに。
まぁ、普通にイイと思うけど。
桜井レベルではちょっとメロディ的には落ちちゃうよね......って高いレベルを要求し過ぎですよね(笑)
他のミュ―ジシャンがこんな曲書いたら、ビビるに違いないのだから。
10 Everything is made from a dream
.......ここでまたまた一癖ある曲が来る。
マ―チ調の楽しい曲だ。歌詞も色々詰め込んでてごしゃごしゃしてるけど、聴いててオモシロイ。
低めのキ―から始まって、いきなりメッチャ高くなるからビビらされるが、彼の曲では結構よくある展開だ。
中間部のしゃべりには、他のメンバ―も参加してますね。
「すべては人間の描いた夢からはじまっている」。
その通りです。
11 口笛
........ここでようやく「THE ミスチル」な曲がやってくる。
特にこれ以前のミスチルというより、この「Q」以降のミスチルの王道の名曲の雛型の様な曲である。
(「Sign」や「旅立ちの唄」など)
桜井は当事、「この曲が出来たからこそ、やっと自信をもってこのアルバムを出す決意が出来た」などと云っていた。
やっぱり、そこは売り上げを気にするんだね、桜井さん。
まるでポ―ルマッカ―トニ―の様な悩みですな。
大丈夫、あなたの凄まじい才能をもってすれば大コケはしないってば。
だから、「REFLECTION」も良かったんだけど、もっともっと「ロック」なミスチルを見せておくれよ(笑)
えっ?それは「SENSE」でやったってか?
もっと、もっとだ!(笑)
12 Halellujah
.........うん、これもまた1、2曲目のUKロック路線のサイケデリック系統ですねぇ。
こういう系統の曲、実はなかなか他のバンドは創らないんだよね。
創れないのかも知れないけど。
独特のセンスが必要ですからねぇ。
こういうのがひょいひょい創れるのが桜井和寿の貴重な才能の一つです。
この曲はなんでも随分温めていたらしく、何パタ―ンも違うアレンジのデモがあるそうです。
他のヤツは聴いた事ないけれど、このバ―ジョンでも充分OKです。
ポップザウルスツア―では、この曲から「花」という曲に繋がっていく、という展開で演奏していましたね。
13 安らげる場所
.......最後に相応しい静かな名曲。
メロディはそれこそ前作の「Image」なんかと比べてしまうと物足りないんだけど、前述の通り、僕は桜井和寿という男にハイレベルを求め過ぎですね(笑)
こんだけの曲すら、普通創れないってば(笑)
........................
と、いう事で、総評。
グッドメロディはやや尽きている。
「Atomic Heart」から「DISCOVERY」まで続いた神がかり的なメロディ時代は一旦終了。
だからといって別にメロディの質がガクッと落ちた訳ではない。
このアルバムは、色んな意味でミスチルの挑戦、である。
これからの自分達の音楽性や在り方、バンドの体制を考える模索期である。
なんでも、どの曲かは知らないが、ダ―ツを投げて曲のBPMを決めたりしたモノもあるらしい。
(「NOT FOUND」という情報あり。定かではないが)
「実験」「挑戦」「過渡期」である。
重量級の曲が幾つも収録されている、やや胃もたれしそうなアルバムだから、ヤッパリ聴く頻度はこれからも上がりそうにはないが、当然、駄作ではない。
かといって、僕としては、傑作とも云い難い......かなぁ。
ていうかね、まず、バンド感が薄いよね(笑)
桜井の話では、このアルバムでは、前作までより、かなりの部分を他のメンバ―に委ねたという。
しかし、どんなに委ねようとも、結局最終的には桜井が全部もっていってしまうし、小林武史がアレンジ面は張り切っちゃうから、まぁ、ヤッパリ影は薄くなってしまいますよねぇ。
ここらへん、サザンとおんなじ状態が起こっている訳ですが、しかし、メンバ―の首を誰でもすげ替えられる、という話ではない。
いくら作曲面での貢献が少なかろうが、ヤッパリライブにおいては、いや、録音でもだろうけれど、このメンツでなければ「ミスチル」にはならないのだ。
バンドメンバ―とは「ソウルメイト」なのだ。
ガンバレ、ミスチル!
もっとロックなアルバム、ヨロシクね♪(笑)